2013年9月25日水曜日

太田英利教授(兵庫県立大学自然・環境科学研究所)研究論文発表(新聞に掲載)


与論島の古いゴミ捨て場あとより収集された骨格残骸が示唆する、近年、人目に留まることもなく生じた有鱗爬虫類(ヘビ類、トカゲ類)の絶滅


中村泰之 琉球大学熱帯生物圏研究センター 博士研究員(ポスドク)
高橋亮雄 岡山大学大学院理学研究科 専任講師
太田英利 兵庫県立大学自然・環境科学研究所 教授

与論島の古いゴミ捨て場あとより収集した、有鱗爬虫類の骨格の残骸について報告する。同定できた残骸には少なくとも3種の陸生ヘビ類と7種のトカゲ類が含まれていた。そのうちヘリグロヒメトカゲ、クロイワトカゲモドキ、およびヤモリ属の1未記載種は同島からのはじめの記録であるが、現在これらは与論島には見られない.また、古い(19501960年代はじめ頃に出版された)文献中で与論島での生息が示唆されつつも、現在、同島にはまったく見られないアカマタ、ガラスヒバァのヘビ類2種とキノボリトカゲについては、かつてこれら3種が確かにこの島に分布していたことを示すはじめての具体的な物証となっている.これら計6種もの爬虫類が現在、与論島にまったく見られないことの主要因としては、1950年代中頃、同島に人為的に持ち込まれ放逐されたニホンイタチの捕食による絶滅が考えられる.今回の調査研究の結果は島嶼の爬虫類の多様性が崩壊した顕著な例で、このような内容が琉球列島から高い確度で報じられたのは初めてのことである.今回の結果はこの地域で生物多様性の研究をする場合、人の営み・操作が野生生物に及ぼす影響を十分考えに入れておくことの重要性を示している.またさらに、外来性捕食動物を島嶼に持ち込むことが在来動物相にもたらす危険性を、如実に示している.

補足: 掲載誌はイタリアのフィレンツェ大学出版が刊行している Acta Herpetologica(アクタ ハーペトロジカ)誌の8巻1号


参考: 同じ著者らによる2009年の論文では、同じ場所・手法によって、与論島に1970年代はじめ頃まで生息していたアオガエルの一種(おそらくオキナワアオガエルないしアマミアオガエル)が、近年完全に絶滅し島からいなくなったこと、原因として森林や水田の消失、イタチの導入などが考えられることを報じた.こちらの報告の掲載誌は、日本爬虫両棲類学会が刊行する英文学術雑誌 Current Herpetology (カレントハーペトロジー) 281


追記: アオガエルの消失については上記のように、必ずしもイタチによる捕食だけが原因とは言えなかった。が、ヘリグロヒメトカゲやキノボリトカゲ、アカマタなどは、与論島よりはるかに面積が小さく、また植生も貧弱な島にも生息しており、これらが20世紀後半以降、急速に与論島から姿を消した主要因としては、やはりイタチによる捕食と考えざるを得ない.